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調査で分かったこと

妊娠中のお母さんが就業上の理由で医療用物質を取り扱うと、こどもの発がんに影響がある?

妊娠中のお母さんが就業上の理由で医療用物質(抗がん剤、放射性物質、麻酔薬)を取り扱うことによる、3歳までのこどもにおける小児がん(白血病、脳腫瘍)の発症への影響を解析しました。その結果、お母さんが抗がん剤を取り扱う場合に限り、こどもが1歳以降に白血病を発症するリスクが増加する可能性があることを見出しました。しかし、この研究は就業上の抗がん剤の取り扱いとこどもの白血病との関連性を見出したに過ぎず、抗がん剤の取り扱いが原因で白血病が増えるという因果関係を示したものではありません。妊娠中の医療者には十分な曝露保護を行いつつ、この関連性が本当なのかどうかについては更なる検証が必要です。

Yamamoto S, et al. Blood (2024)

妊娠中のお母さんの血液中の金属濃度はこどもの腎尿路の発生に影響する?

今回、妊娠中のお母さんの血液中の金属の濃度がこどもの腎尿路の発生に関係するかを調べました。鉛、カドミウム、水銀、セレン、マンガンの5つの金属について調べ、その中でマンガンの濃度が高いほど、他の臓器の先天異常を合併した腎尿路の先天異常を、こどもが起こしにくくなる傾向がみられました。この結果をもって妊娠中にマンガンをたくさん摂取することを推奨するものではありませんが、子どもの先天異常の発症には、金属の過剰だけでなく欠乏も影響している可能性があるという視点を持つことが大切かもしれません。

Iwaya et al., Science of the Total Environment (2023)

子どもの睡眠と気質は自閉症に関係する?

生後1ヶ月の子どもの睡眠と気質が、3歳での自閉症に関係しているかを調べました。夜間より日中の睡眠時間が長いことや、頻繁・激しく泣くことがあると、後に自閉症と診断される傾向が高いことがわかりました。赤ちゃんの睡眠や気質への気づきがお子さんの発達の上で重要となるかもしれません。

Kikuchi et al., Communications Medicine (2023)

お母さんの慢性疾患が子どもの腎尿路の発生に影響する?

子どもの腎尿路の発生は両親から受け継いだ性質(遺伝要因)とお母さんのおなかにいたときの状態(環境要因)の影響を受けます。そこで、お母さんの慢性疾患がこどもの腎尿路の発生に影響を与えるかどうかを調べました。お母さんが腎疾患または悪性腫瘍にかかったことがある場合には、お子さんが腎尿路のみの先天異常を起こしやすいことがわかりました。また、お母さんが糖尿病にかかっていると、お子さんが他の臓器の先天異常を併せ持つ腎尿路の先天異常を起こしやすいことがわかりました。とりわけ糖尿病は妊娠前から治療を受けることが大事なようです。

Nishiyama K et al., American Journal of Kidney Diseases(2022)

乳時期早期(生後3-6か月)の粉ミルク摂取が牛乳アレルギーのリスクを減らす?

以前エコチル調査で、1歳までのどの時期の粉ミルク摂取が牛乳アレルギー発症に関係しているかを調べ、生後3〜6か月での粉ミルク摂取が牛乳アレルギーのリスクを下げることを報告しました(Tezuka J et al., Clinical & Experimental Allergy 2021)。今回私たちは、追跡期間を延長し、3歳の時点での牛乳アレルギー発症と乳児期の粉ミルク摂取時期の関連を調べました。その結果、3歳での牛乳アレルギーには、1歳時と同様に、生後3〜6か月での粉ミルクの摂取がリスクを下げることが分かりました。ただし、この観察研究のみでは、母乳栄養を否定することはできず、また粉ミルク摂取を推奨することはできません。

Ikari K et al., Allergy, Asthma & Clinical Immunology (2022)

子どもの睡眠と気質は関係する?

今回の研究では、生後1ヶ月の子どもの睡眠と気質について、夜間より昼間寝ている時間が長いことと、頻繁な泣きや激しい泣きが関係していることがわかりました。とくに女の子でこの傾向があることがわかりました。赤ちゃんの昼夜の睡眠時間に配慮することで、よく泣いたり激しく泣いたりする傾向が緩和されるかもしれません。

Kikuchi et al., PLoS One (2022)

妊娠中のお母さんの身体活動や睡眠が子どもの自閉症に関連する?

妊娠前・妊娠中のお母さんの身体活動量・睡眠と、3歳の子どもの自閉症が関連するか、質問票をもとに調べました。妊娠中の身体活動量が多いと、3歳のお子さんの自閉症は少ない傾向にありました。また妊娠中の睡眠時間が短すぎる場合や長すぎる場合は、逆にお子さんの自閉症が多い傾向にありました。妊娠中の生活習慣に気をつけることは、お子さんの発達の上でも大事なことかもしれません。

Nakahara et al., Communications Medicine (2022)

つわりがひどいと赤ちゃんは小さくなるの?

一般的に「つわりがあると赤ちゃんは大きく生まれ、重いつわり(妊娠悪阻(にんしんおそ))があると赤ちゃんは小さく生まれる」と言われています。本研究では、妊娠悪阻を伴う妊娠では症状が治まったあと(妊娠中期以降)も妊婦の体重が伸び悩むことが、赤ちゃんが小さく生まれる事象を部分的に説明できることを明らかにしました。人によっては妊娠中期以降も吐き気や嘔吐が続くことがあるので難しい面もありますが、今回の調査結果は一般的につわりの症状が収まるとされる妊娠中期以降の妊婦への教育的・栄養的介入により、赤ちゃんの母胎内での発育低下が予防可能である可能性を示唆する結果であるため、今後の介入開発が期待されます。

Morisaki et al., BMC pregnancy and childbirth (2022)

妊娠中のお母さんの血液の濃さが子どもの睡眠や発達に影響する?

妊娠中のお母さんのヘモグロビン濃度(血液の濃さ)と1歳の子どもの睡眠と発達の関係を、血液検査のデータや質問票の回答をもとに調べました。お母さんのヘモグロビン濃度が低い(貧血がある)と、1歳の子どもは夜遅くに寝る傾向や発達の問題が起こりやすい可能性があることがわかりました。妊娠中の貧血に気をつけることは、赤ちゃんにとっても大事なことかもしれません。

Nakahara et al., Health Science Reports (2022)

妊娠中にはどのように体重を増やせばいいの?

2021年に改訂された「妊婦の体重増加指導の目安」を満たすためには妊娠中にどのように体重を増やせばよいかを示すため、妊娠週数別の体重増加曲線を作成しました。妊娠前BMIが18.5未満、18.5-25、25-30、30以上の妊婦では、それぞれ妊娠30週で8.4〜11.1kg、6.4〜9.1kg、3.8〜6.5kg、1.9kg未満、体重が増えている場合、妊娠40週に「妊婦の体重増加指導の目安」に定められた範囲内の体重増加が得られる軌道に乗っていると推定されました。ただし、今回作成した妊娠週数別体重増加曲線は、調査参加者の妊娠中の体重増加の軌跡であり、この軌跡どおりの体重増加を描いていることが理想的であることを示すものではないことには留意が必要です。

Morisaki et al., Journal of Epidemiology (2021)

お母さんの慢性炎症が早産に関係する?

怪我や感染などによって起こる炎症反応というのは本来一時的な反応ですが、その反応がおさまらず長く続いてしまう状態を慢性炎症といいます。血液検査で単球、好中球、リンパ球、血小板といった血液成分の構成を調べることで症状のない慢性炎症が予測できると言われています。しかし、それらが妊娠中にどう変わるか、妊娠中にそれらを調べることが有用なのかについては、あまりよく分かっていませんでした。私たちは妊娠0週から妊娠36週までの血液成分の構成がどのように変化するかを明らかにしました。また、妊娠週数やその値の程度によっては、早産を予測する指標となる可能性があることが分かりました。しかし、個人差が大きいため、今後のさらなる研究が必要です。

Morisaki et al., Scientific Reports (2021)

妊娠前・妊娠中のお母さんの睡眠は子どもの睡眠や発達に関係する?

妊娠前・妊娠中のお母さんの睡眠(睡眠時間や就寝時刻、眠りの深さ、目覚めの気分)と1歳の子どもの睡眠と発達の関係を質問表の回答をもとに調べました。妊娠前・妊娠中のお母さんの睡眠時間が短かったり、就寝時刻が遅かったりすると、子どもの睡眠の問題が増えることが分かりました。例えば、妊娠前のお母さんの睡眠時間が短いと1歳の子どもは夜に長い間起きていたり、夜の睡眠時間が少なかったり、夜遅くに寝る傾向があることが分かりました。また、妊娠中のお母さんの睡眠の質の主観的な評価が良い(とても深い眠り、目覚めの気分がとても良い)と、1歳の子どもの発達の問題は起きにくいことが分かりました。睡眠時間や就寝時刻だけでなく、睡眠の質に気を配ることも大事かもしれません。

Nakahara et al., Scientific Reports (2021)

妊娠前・妊娠中のお母さんの身体活動が子どもの睡眠や発達に関係する?

妊娠前・妊娠中のお母さんの身体活動量と1歳の子どもの睡眠と発達の関係を質問表の回答をもとに調べました。妊娠前・妊娠中のお母さんの身体活動量が多いと、1歳の子どもが遅い時間まで起きていることが少なく、発達の問題も起きにくいことが分かりました。妊娠前からよく体を動かすことはお母さん自身だけでなく、赤ちゃんにとっても良いことかもしれません。

Nakahara et al., Scientific Reports (2021)

母乳栄養は神経発達に関係するの?

母乳栄養と子どもの認知機能については、様々な交絡因子(その関連に影響を与える因子)を考慮しても関係があると報告されていますが、測定していない交絡因子の影響は取り除くことができません。私たちは質問票の情報を使用して、母乳栄養と1歳までの神経発達の関係を調べ、母乳栄養の場合に神経発達の遅れが少ないことを明らかにし、交絡因子の影響を少なくできるきょうだい児の解析でも、それを確認しました。しかし、この研究には様々な制約があり、母乳栄養が神経発達に良いと結論付けることができないため、今後の研究が待たれます。

Sanefuji et al., BMJ Open (2021)

子どもの体格は神経発達に関係するの?

早産やSGA(small-for-gestational age: 妊娠期間の割に体が小さい)のお子さんでは、身長や体重が小さいと神経発達の遅れが出やすいことが知られていますが、正期産(妊娠37週以上42週未満)では一定の見解が得られていません。私たちは、乳幼児健診で測定した身体計測値と質問票から推測した神経発達との関係を調べ、生後4か月までの身体発育が良い場合に、1歳までの神経発達の遅れが少なくなっていることを明らかにしました。ただし、この関係がその後も続くかどうかについて、今後も調査を続けていく必要があります。

Sanefuji et al., BMC Pediatrics (2021)

乳児期の粉ミルク摂取が牛乳アレルギーを減らしている?

ピーナッツや卵については、生後早期から日常的に摂取することが、そのアレルギーに予防的に働くのではないかと報告されていますが、牛乳についてはよくわかっていません。私たちは質問票の情報を使用して、1歳までのどの時期の粉ミルク摂取が牛乳アレルギー発症に関係しているかを調べました。生後3~6か月時の摂取は牛乳アレルギー発症のリスク低下と関係していましたが、生後0~3か月時の摂取には関係がありませんでした。ただし、この観察研究の結果だけをもって粉ミルクを推奨することはできず、今後の更なる研究が必要です。

Tezuka et al., Clinical & Experimental Allergy (2021)

お母さんの妊娠前・妊娠中の睡眠と、早産・乳児の睡眠と気質は関係してる?

妊娠中の質問票の回答から、妊娠前・妊娠中の睡眠に関する項目(睡眠時間や就寝時刻、睡眠の深さ、目覚めの気分)を調べて、早産や生後1か月での睡眠(夜泣きが多いや夜間の睡眠時間が短い)や気質(機嫌が悪い、よく泣く)との関係を調べました。すると、妊娠中に睡眠の質が良くないと感じている場合は妊娠34週以降の早産を経験する可能性が少しだけ高くなることが分かりました。また妊娠前・妊娠中のお母さんの睡眠は生後1か月の赤ちゃんの睡眠や気質(機嫌が悪い、良く泣く)にも関係しているようでした。例えば、妊娠前のお母さんの睡眠時間が6時間未満だったら、生後1ヶ月の赤ちゃんは激しく泣く傾向があることが分かりました。妊娠前から睡眠に気を配ることも大事かもしれません。

Nakahara et al., Scientific Reports (2020)

胎児機能不全は、1歳時の睡眠に関係している?

妊娠中は主に超音波検査、赤ちゃんの心拍数とお腹の張りの関係をみる胎児心拍数陣痛図で赤ちゃんの状態を評価しています。これらにより、胎児機能不全(赤ちゃんが元気とは判断できない状態)を判断します。しかし、産まれた後に評価すると実は胎児機能不全ではなかった、すなわち偽陽性の胎児機能不全だったということが多くあります。以前の報告から赤ちゃんの自律神経の変化がこの偽陽性の原因で、産まれた後の睡眠の問題を引き起こす可能性があるのではないかと考えました。そこで、私たちは偽陽性の胎児機能不全と質問票で調べた1歳時の睡眠の問題に関係があるのかを調べました。偽陽性の胎児機能不全があった場合に、夜間睡眠時間が短い・夜泣きが多い・就寝時間が遅くなるリスクが少しだけ上昇することが分かりました。質問票で睡眠の問題を評価しているという限界もあり、今後の検討が必要です。

Nakahara et al., Scientific Reports (2020)

出産前の胎児機能不全が赤ちゃんのかんしゃくに関係している?

妊娠中には、胎児の心拍数を測定して胎児機能をチェックし、胎児機能不全(赤ちゃんに酸素や血液が不足している可能性がある:これだけではわかりません)があるかないかを判断 します。この胎児機能不全があると、生まれてきた赤ちゃんのかんしゃく(のけぞって泣く・ 激しく泣く)が強いという報告がありましたが、なぜそうなのかはわかっていませんでした。 私たちは、胎児機能不全と新生児期のかんしゃくに関係があるのかを調べ、胎児機能不全が 原因でかんしゃくを起こしているのではなく、逆にかんしゃくがあると胎児機能不全と判 断されやすいのではないかということを明らかにしました。赤ちゃんの気質が、生まれる前 からある程度決まっていることを表しているのかもしれません。

Morokuma et al., Scientific Reports (2018)

お母さんの食事の内容で、子どもの生まれた時の体重がかわるの?

妊娠中には食事について特に気を配られていたお母さんもいらっしゃると思います。食事 からの栄養素は、1炭水化物、2タンパク質、2脂肪に大きく分けられます。この 3 つの栄 養素の割合が、赤ちゃんが生まれた時の体重(出生体重)にどのように影響するのかについ て、適切なモデルで解析した研究はありませんでした。私たちは、妊娠中の食事調査票を使 って 3 つの栄養素の量を計算して、出生体重との関係を調べました。その結果、タンパク質 からのエネルギーが 12%の時に、出生体重が最も大きく、多すぎても少なすぎても小さめ になることが分かりました(※質問票から計算した量で、実際に食べた量とは必ずしも一致 しません)。結局のところ、バランスの良い食事が大事と言えるかもしれません。

Morisaki et al., British Journal of Nutrition (2018)

お母さんの眠りが浅い・少ないと、子どもが小さく生まれるの?

妊娠中に、お母さんの睡眠はどうでしたか? 眠る時間が短くなったり、朝の目覚めの気分 がよくなかったりしたお母さんもいらっしゃるかもしれません。睡眠時間が短いと、SGA (small-for-gestationalage: 妊娠期間の割に体がかなり小さい)児が生まれやすくなるとい う報告が1つありますが、他に報告はほとんどありませんでした。私たちは、平均の睡眠時 間を計算し、また皆様にお答えいただいた質問「最近 1 か月、朝、目覚めた時の気分は平均 するとどの程度ですか?」をもとに睡眠の質を推測しました。その結果、睡眠時間が短い、 または睡眠の質が良くないとしても、SGA 児が生まれやすくなるわけではないことが分か りました。

※調査初期の約 1 万人分のデータによる結果です

Morokuma et al., BMC Research Notes (2017)

お母さんに悪阻(強いつわり)があると、子どもが小さく生まれるの?

妊娠中につわりを経験されたお母さんも多いと思います。お母さんの体重が減ってしまう ぐらい強いつわりは悪阻(おそ)と呼ばれます。この悪阻があると、SGA(small-for- gestational age: 妊娠期間の割に体がかなり小さい)児が生まれやすくなるという報告もあ れば、そうではないという報告もあり、日本からの研究はあまりありませんでした。全国の エコチル調査のデータで解析した結果、悪阻、つまり強いつわりがあるからといって、SGA 児が生まれやすくなるわけではないことが分かりました。

※調査初期の約 1 万人分のデータによる結果です

Morokuma et al., BMC Pregnancy and Childbirth (2016)